人を減らしたのに、残業代が増えた。
二人の退職を機に補充を止めた。設定上、固定給与等は月72万円減ったが、残業と突発外注は計78万円増えた。人数を決める前に残すべき仕事を考える。

物語|消えた二人分の、残った仕事
経営フィクション
金曜の夜、制作室には八人全員が残っていた。社長は月次の費用表を持って入った。「二人減ったのに、どうして支出が増えているんですか」。現場責任者は、画面に並ぶ修正依頼を示した。「人数は減りました。でも、ここに来る仕事は残っています」。
法人向け印刷物の校正と入稿を請け負う会社で、担当者二人の退職が決まった。社長は十人から八人になる機会に、補充を見送った。売上が伸びず、設備の更新費も必要になっていた。固定支出を下げる理由はある。AIで原稿のたたき台を作る試行も始まり、社長には人数を戻さず回せるように見えた。
判断時点で手元にあったのは、過去三か月の受注件数と月次費用、条件が揃った十二件で行った原稿作成の試行結果。作成時間は短くなっていた。ただ、顧客の表記指定、印刷会社への確認、最終校正にかかる時間は、試行に含まれていなかった。退職する二人が、ほかの担当者から集まる例外の相談を引き受けていたことも、工数表には独立して載っていなかった。
現場責任者は、月の前半なら八人でも処理できると考えていた。しかし、締切が重なる月末には、校正を待つ原稿が一斉に集まる。「人を減らすなら、受注の締切も変えたい」と伝えたが、営業責任者は反対した。急ぎの依頼を受けることが、継続受注につながっていると考えていた。どの顧客が、どこまで締切の変更を受け入れるかは分からない。
社長は、まず八人で一か月運営し、足りないところを調整する方針を選んだ。補充なら費用が戻る。受注を絞れば売上が落ちる。AIへの投資も始めた以上、一度は試す意味があると考えた。その一方で、残業や再作業がどこまで増えたら計画を止めるかは決めなかった。
最初の週は、原稿が以前より早く机に届いた。現場は手応えを感じた。二週目から、顧客別の表記を直す依頼が重なった。AIで作成が早くなった分、確認待ちの原稿が校正担当の前に積み上がる。問い合わせの答えを知っていた二人は、もういない。残る担当者は、過去のメールを探しながら返答した。
営業は約束した納期を守るため、急ぎの作業を外注へ回した。外注への説明と戻ってきた原稿の確認も、社内の担当者が行った。現場責任者は通常業務の割り振りをしながら、夜にその確認を続けた。担当者はそれぞれ納期を守ろうと動き、AIも原稿作成の一部では時間を縮めていた。残っている確認の仕事が、同じ時間帯に集中していた。
月次で比べると、十人体制の固定給与・事業主負担の合計は三百六十万円、残業関連支出は二十四万円、突発外注はゼロ。合計三百八十四万円。八人体制では固定給与等が二百八十八万円、残業関連支出が六十六万円、突発外注が三十六万円。合計三百九十万円になっていた。
固定給与等は七十二万円減った。残業関連支出は四十二万円、突発外注は三十六万円増え、増加分は七十八万円。比較した支出は差し引き六万円増えている。経理責任者は付け加えた。「これは、再作業による売上への影響や導入時の費用まで入れた比較ではありません」。社長が期待した七十二万円は、手元に残る金額になっていなかった。
経理責任者は、すぐに二人を補充する案も用意した。現場責任者には安心できる案に見えたが、同じ仕事の流れへ戻せば、設備更新の費用は引き続き足りない。社長は、新規注文の急ぎ対応の条件を見直し、二重に作っていた社内報告を一つにすることを選んだ。既に約束した納期は、顧客との合意なしに変更しない。移行中の応援費用は、必要な支出として残した。
営業責任者は、受注条件を変える顧客との話し合いを引き受けた。「断られるかもしれませんよ」。社長はうなずいた。削減の計画には、残業が減る期待だけでなく、失う注文の利益も入れることにした。AIは表記が揃う原稿に絞り、最終確認を外さない。校正待ちが増えれば、先の工程をさらに速くする投資はいったん止める。
翌週、二重の社内報告はなくなった。急ぎの条件を変えた顧客の中には、通常納期に切り替えた先も、他社へ依頼した先もあった。現場には少し時間が戻ったが、失注もある。月全体の収支はまだ締まっていない。社長は人件費削減の報告書を保留した。「八人で続けられるかは、減らした仕事と、残した売上を見てから決めます」。
分析|時間の短縮と、支出の減少を分ける
経営フィクション
本ケースの金額は物語上の設定。固定給与等と残業関連支出は重複せず、残業関連支出にはその事業主負担を含める。比較は両体制の各一か月、三費目に限る。AI利用料や導入・教育費、売上への影響を含む全社収支とは区別する。
失敗の仮説は、部分的な時間短縮を、人件費を減らせる余力として扱ったことにある。ただし、二人の減少だけが費用増の原因と確定したわけではない。受注件数が近くても、短納期案件の比率や修正の多さが違えば比較は変わる。作業の内訳を揃えて確かめる必要がある。
補充にも、受注条件の変更にも、見送る利益がある。削減できる業務が少ない場合は、増員が合理的な選択になり得る。関連する解説では、なくす仕事の選定、工数と現金効果の分離、守る業務・品質・安全の確認へ進める。物語の結末から、八人体制やAI導入の有効性を一般化しない。
減らせる人数を決める前に、なくせる仕事と、ピーク時にも残す機能を確かめる。
- 適用する条件
- 納期・品質・安全などの制約と、固定費・残業・外注を同じ範囲で比較できる場合。
- 確認する事実
- 物語の比較月では固定給与等が72万円減り、残業関連支出と突発外注が計78万円増加。比較対象の支出は6万円増えた。
- 反証・失敗条件
- 削減できる仕事が少なく、必要な品質を保てないなら、増員や受注量の縮小も比較する。
選択肢を比べる
| 選択肢 | 得られること | 費用・制約 |
|---|---|---|
| 八人体制をそのまま続ける | 固定給与等の減少は維持できる | 残業・外注と品質負担が続く可能性 |
| 二人分を補充する | 処理余力を戻せる可能性 | 採用・教育と固定支出の増加 |
| 仕事と受注条件を変える | 処理量と体制を合わせやすい | 顧客調整・移行負担・失注の可能性 |
このケースの位置付け
経営フィクション。会社、人物、会話、人数、金額、期間、結果はすべて新規創作による物語上の設定。実在の案件・人物・既存作品を原作とせず、顧客実績や施策の効果を示すものではない。
物語上の出来事は、特定の施策の効果や実在企業の実績を示しません。実務解説の出典は、関連記事に掲載しています。
運営:ミレニアム株式会社 · 編集:WAKARU編集部
次回確認予定:2027.04.18 · 訂正方針を確認する
